ブルーハーツ「パンク・ロック」の歌詞の考察を行います。
「パンク・ロック」は、オリジナルアルバムでは、1987年リリースされたファーストアルバム「THE BLUE HEARTS」に収録されています。
また、ベストアルバムでは、「ALL TIME MEMORIALS Ⅱ」に収録されています。
この曲は、ブルーハーツの曲の中では、そこまで有名な曲ではないかもしれません。
スローなテンポの曲で、皆が思い浮かべるブルーハーツのイメージとは少し違った曲です。
ただ、ファンからは根強い人気のある曲です。
甲本ヒロトの「パンク・ロックに対する愛情」を歌った曲となっています。
そして、歌詞は、『やさしいから好きなんだ』という部分がとても印象に残ります。
この歌詞を聴くと、頭の中に「?」が浮かぶ人が多いと思います。
パンク・ロックは、基本的に激しくて攻撃的な音楽です。
そのため、普通は、パンク・ロックを聴いて「やさしい」と思わないからです。
ただ、歌詞をじっくり見ていくと、ヒロトが『やさしいから好きなんだ』と言っている理由が、わかってきたりします。
そこで、ここからは、「パンク・ロック」の歌詞を考察して、歌詞に隠された意味を探っていきます。
この曲の作詞・作曲者は、甲本ヒロトです。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「パンク・ロック」の歌詞の考察
1番のAメロの歌詞
吐き気がするだろ みんな嫌いだろ
まじめに考えた まじめに考えた
冒頭から、『吐き気がするだろ みんな嫌いだろ』という強烈な歌詞が来ます。
これは、どういった意味でしょうか?
一つ考えられるのは、この部分は、「昔の甲本ヒロト自身」のことを歌っているという解釈です。
ヒロトは、学生時代、周囲と価値観が合わず、周りと馴染めなかったようです。
きっと、そういう時に、『吐き気がする』『みんな嫌い』と思ったことはあるでしょう。
その時の気持ちが、ここに描写されているのかもしれません。
または、『吐き気がするだろ みんな嫌いだろ』という発言は、「パンク・ロックを聴いた人」に対して言っているという解釈もできます。
パンク・ロックは、激しくて、攻撃的な側面もある音楽です。
そのため、パンク・ロックを聴くと、『吐き気がする』『嫌い』と感じる人も多いでしょう。
そういう人に向けて、「どうせ、みんな、パンク・ロックのことを、『吐き気がする』とか『嫌い』とか思っているんでしょ?」と言っている可能性もあります。
ただ、この歌詞だけだと、ヒロト自身が周囲に対して『吐き気がする』『嫌い』と思っているのか、パンク・ロックを聴いた人がそう思っているのか、はっきりわかりません。
この辺は、解釈が分かれる箇所だと思います。
ただ、「ヒロト自身が周囲に対してそう思っていた」と解釈する人が多そうな気もします。
そして、その後には、『まじめに考えた』という歌詞が続きます。
何をまじめに考えたのかについては、サビの部分の歌詞を見ればわかります。
1番のサビの歌詞
僕 パンク・ロックが好きだ
中途ハンパな気持ちじゃなくて
本当に心から好きなんだ
僕 パンク・ロックが好きだ
1番のAメロの部分で『まじめに考えた』と言っていたのは、おそらく、「自分は、何が好きなのか、まじめに考えてみた」ということでしょう。
まじめに考えた結果、『パンク・ロックが好きだ』という結論に至ったようです。
『中途ハンパな気持ち』というのは、「ファッションとしてパンク・ロックを聴いている人」のことを指していると思われます。
世の中には、「今、流行っているから」「パンク・ロックを聴いていると、かっこよく思われそうだから」という理由で、パンク・ロックを聴いている人がいます。
いわゆる、「軽い気持ちでパンク・ロックを聴いている人」のことです。
しかし、ヒロトは、「自分は、そういう人とは違う」「軽い気持ちでパンク・ロックを聴いてはいない」と言っています。
『本当に心から好き』だからパンク・ロックを聴くと言っています。
このサビの部分の歌詞を見ると、「パンク・ロックに対する、ヒロトの深い愛情」を感じます。
2番のAメロの歌詞
友達ができた 話し合えるやつ
何から話そう 僕のすきなもの
ここでは、『友達ができた』とありますが、この『友達』というのは、「パンク・ロックについて話し合える友達」ということでしょう。
こういった、「好きなものが同じ友達」ができるのは、とても嬉しいことです。
そして、そういう友達と好きなことについて話すと、非常に楽しくなります。
少し大げさではありますが、そういった友達と好きなことについて話す時間というのは、「人生の中でも、特に素晴らしい時間」だと思います。
ただ、マイナーなものが好きだったりすると、「共通の趣味の友達」を見つけるのが難しかったりします。
パンク・ロックも、ヒロトが若い頃は、日本ではきっと「マイナーな音楽」だったのでしょう。
そんな時に、「自分もパンク・ロックが大好き」という人が現れたら、とても嬉かったでしょう。
『何から話そう 僕のすきなもの』というのは、「あのバンドが好き」「あのアルバムが好き」「あの曲が好き」「あの曲のギターが好き」など、色々と話したいことがあって、どれから話すか迷っているということでしょうか。
また、この部分の歌詞は、実際に友達ができたのではなく、「パンク・ロックを擬人化して『友達』と言っている」と解釈することもできます。
大好きなものを見つけた時というのは、まるで、親友を見つけた時のような気持ちになることがあります。
きっとヒロトも、パンク・ロックを初めて聴いた時は、親友を見つけた時のような気分になって、パンク・ロックに対して親近感を覚えたのではないでしょうか。
そして、パンク・ロックを聴いていると、「まるで親友と会話している時のような気分」になったのかもしれません。
まあ、これは少しひねくれた解釈ですが、こういう解釈も、できなくはない歌詞だと思います。
2番のサビの歌詞
僕 パンク・ロックが好きだ
中途ハンパな気持ちじゃなくて
ああ やさしいから好きなんだ
僕 パンク・ロックが好きだ
2番のサビで一番印象的な歌詞は、おそらく『やさしいから好きなんだ』という部分でしょう。
これを聴いて、「パンク・ロックのどこがやさしいの?」と疑問に思う人が多いと思います。
この歌詞を書いた意図について、「リスナーを驚かせようとして、あえて、普通とは真逆のことを言っているんだ」と言う人もいます。
確かに、そういう意図で『やさしい』という歌詞にした可能性もあります。
しかし、私としては、この『やさしい』という歌詞は、ヒロトの本音ではないかと思います。
ヒロトが、パンク・ロックを『やさしい』と感じた理由について考えてみます。
前述したように、ヒロトは、学生時代、周りと価値観が合わず、悩んでいました。
周りと価値観が合わないということは、「常に周囲から否定されている」ように感じていたということです。
これは、なかなかしんどい状況です。
この状況だと、ヒロトは、「周りにいる人はやさしくない」と感じていたでしょう。
しかし、パンク・ロックを初めて聴いた時、「自分と同じような奴がやっている音楽だ」と感じたようです。
ヒロトは、自分のことを「はみだし者」と捉えていて、パンク・ロックをやっている人達についても、「自分と同じ、はみ出し者だ」と思ったのでしょう。
そこで、パンク・ロックを演奏している人に対して「仲間意識」が芽生え、「自分の存在が肯定されている」と感じたのではないでしょうか。
ヒロトは、「自分を肯定してくれた」という意味で、パンク・ロックのことを『やさしい』と言っているのだと思います。
そして、ヒロトは、パンク・ロックに出会ったことで、自らも音楽活動を行うようになりました。
音楽活動を行う中で、「価値観が合うバンド仲間」にも出会うことができました。
もし、ヒロトがパンク・ロックと出会っていなければ、そういう仲間とも出会えなかったかもしれません。
ヒロトにとって、パンク・ロックは、自分を肯定してくれて、さらに、自分と似た価値観の人と出会うきっかけをくれた存在と言えます。
そのため、パンク・ロックに対して『やさしい』という感情を抱くようになったのではないでしょうか。
まとめ
ブルーハーツ「パンク・ロック」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
この歌詞を見ていると、パンク・ロックに対する、ヒロトの熱い気持ちが伝わってきます。
パンク・ロックに対する「愛情と感謝」が伝わってくる歌詞です。
そして、この曲は、「パンク・ロック」というタイトルですが、そのタイトルなのに、曲のテンポはゆったりしているところが面白いと感じます。
普通、パンク・ロックというと、「速いテンポの曲」を思い浮かべる人が多いと思います。
この曲は、皆が思う「パンク・ロック」のイメージとは、だいぶ違うテンポ感になっています。
なぜ、あえて遅いテンポにしたのでしょうか?
一つ考えられるのは、「パンク・ロックというタイトルなのに、遅いテンポだったら面白いんじゃないか」と考えて、このテンポにしたのではないかということです。
実際、「パンク・ロックというタイトルなのにテンポが遅い」という点が面白い曲に仕上がっているので、その可能性もあるかもしれません。
ただ、自分としては、そういう意図ではなく、「歌詞をじっくり聴かせるため」に、ゆったりしたテンポにしたのではないかと推測します。
この曲の歌詞は、「パンク・ロックが好きだ」と語りかける内容となっています。
もし、この曲が速いテンポだったらと想像すると、「パンク・ロックが好きだ」という歌詞の重みが、少し薄れてしまう感じがします。
そのため、歌詞に重みを持たせようとして、あえて遅いテンポにしたのではないでしょうか。
実際、このゆったりしたテンポで聴くと、「パンク・ロックが好きだ」という気持ちが、ずっしりと伝わってきます。
もし、歌詞に重みを持たせるためにあえて遅いテンポにしたとしたら、このテンポにしたのは正解だなと思いました。
まあ、このテンポにした意図は、ブルーハーツのメンバーでなければわかりませんが、自分としては、なんとなくそんな気がしています。
パンク・ロックにカテゴライズされる音楽は、パッと聴いた印象は「激しい音楽」です。
しかし、「はみだし者を肯定してくれる」という意味で、はみだし者にとっては、とてもやさしい音楽と言うこともできます。
この曲を聴くと、改めて、「パンク・ロックは、ただ激しくて攻撃的なだけの音楽ではないな」と思わされます。
もし、この曲の歌詞の意味をあまり考えずに聴いていた人がいたら、この記事の内容を頭に入れつつ、聴き直してみてください。
そうすると、今までとは少し違った聴こえ方になるのではないかと思います。