ホフディラン「スマイル」の歌詞の考察を行います。
「スマイル」は、1996年にリリースされた、ホフディランのファーストシングルです。
オリジナルアルバムでは、1996年にリリースされた「多摩川レコード」に収録されています。
ちなみに、ここで紹介するのは、リマスターされたバージョンになります。
また、ホフディランの代表曲の一つなので、ベストアルバムにも収録されています。
「ダウンロードで曲を購入したい」という方は、Amazonミュージックで、曲をダウンロードすることもできます。
2020年には、女優の森七菜さんがカバーしたことでも話題となりました。
ホフディランの「スマイル」は、パッと聴いた印象では、非常に明るいポップソングのように思えます。
しかし、じっくり歌詞を見ていくと、色んなところに「毒」が散りばめられていることがわかります。
これは、皮肉屋のワタナベイビーならではの歌詞だと思います。
YouTubeにMVがアップされていますので、まだ聴いたことがない方は、まずはこのMVを見てみてください。
ここからは、「スマイル」の歌詞を深く掘り下げて、この歌詞に隠されている意味について解説していきます。
この曲の作詞・作曲者は、渡辺慎(ワタナベイビー)です。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「スマイル」の歌詞の考察
いつでもスマイルしようね
この曲は、サビから始まります。
冒頭のサビの部分の歌詞を見ていきます。
いつでもスマイルしようね
とんでもないことが起きてもさぁ
可愛くスマイルしててね
なんでもない顔して出かけりゃいいのさ
ねぇ笑ってくれよ キミは悪くないよ
ねぇ笑ってくれよ さっきまでの調子で yeah
この部分を見ると、「彼氏が、彼女に語りかけている様子」が目に浮かびます。
彼女は、何か落ち込む出来事があったのか、表情が曇っているようです。
そんな彼女に対して、彼氏は「笑って」となぐさめているように思えます。
この部分からは、まだ「毒」の要素は感じられません。
深刻ぶった女はキレイじゃないから
さらに続きの歌詞を見ていきましょう。
ここから、徐々に「毒」が顔を出してきます。
いつでもスマイルしててね
深刻ぶった女はキレイじゃないから
すぐスマイルするべきだ
子供じゃないならね
ここでは、『深刻ぶった女はキレイじゃないから』という毒のある言葉が出てきます。
かなり強烈な言葉ではありますが、ある意味で、「世の中の世知辛さ」をうまく表現した言葉でもあります。
世間の多くの人は、「若い女性は、ニコニコ笑っていてほしい」と思っています。
やはり、眉間にしわを寄せている女性より、ニコニコ笑っている女性と接したいと思っている人が世間には多いということです。
そして、暗い顔をしている女性よりも、いつもニコニコしている女性の方が「得」をする場面が多いです。
ニコニコしている女性の方が、人から、「きれい」や「かわいい」とほめられやすくなります。
また、色んな人から誘われやすくなったり、おごってもらいやすくなったりもします。
この彼氏は、彼女に対して、かなり厳しいことを言っているように思えます。
しかし、それと同時に、「世間の厳しさ」を教えているとも言うことができます。
「笑っていないと、例え顔立ちが整っていても、人からきれいとほめられない」というのはある意味では事実ですから。
そして、この後に続く『子供じゃないならね』という言葉も、かなり毒があります。
確かに、大人というのは「作り笑顔」をしている人が多いです。
「作り笑顔」というのは、「心の中では楽しいと思っていないのに、顔では笑う」ということです。
なぜそのようなことをするのかというと、「笑顔でいた方が得をする場面が多いから」です。
一般的に、暗い顔をした人と笑顔の人がいたら、多くの人は、笑顔の人の方に好感を持ちます。
そして、人から好感を持たれた方が、何かと得をする場面が増えます。
「得をしたい」と思うがゆえに、大人は作り笑顔をするのです。
そのため、この彼氏は、「ほとんどの大人は、得をするために作り笑顔をしている。だから君も得をしたいなら、表面だけでも笑っておいた方がいいよ」と言っているのではないかと思います。
これも、一見冷たい言葉に思えますが、実は「世間の厳しさ」を彼女に教えていると解釈することもできます。
上手にスマイルできるね
次は、こんな歌詞が続きます。
上手にスマイルできるね
こんな時は努力が必要さ
可愛くスマイルしててね
町中にキミを見せびらかすから
ねぇ笑ってくれよ 心配はいらないよ
ねぇ笑ってくれよ さっきまでの調子で
yeah yeah yeah
ここで、『こんな時は努力が必要さ』という歌詞が出てきます。
これを見ると、彼氏は、彼女に対して、「努力して笑う練習をしておかないとダメだよ」と言っていることがわかります。
当然ですが、笑いたくない時に笑うのは、苦痛を伴います。
ある程度、無理をしなくてはなりません。
多少無理をしてでも笑うことを、ここでは『努力』と言っているような感じがします。
完璧なんかでいられる訳がないだろう
さらに歌詞を見てみましょう
いつでもスマイルしててね
完璧なんかでいられる訳がないだろう
すぐスマイルするべきだ
子供じゃないならね
ここでは、『完璧なんかでいられる訳がないだろう』という歌詞が印象に残ります。
これまでは、『上手にスマイルしててね』と言っていた彼氏が、『完璧なんかでいられる訳がないだろう』と言い出すのは、少し不自然な感じがします。
これは、彼氏の言葉というより、「ワタナベイビー自身の言葉」なのではないでしょうか。
この部分に、「ワタナベイビーの本音」が出ているような気がします。
世間というのは、大人に対して、「常に完璧な笑顔でいること」を求めます。
「嫌な時でも、常に笑顔でいるのが大人だ」というセリフを聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、実際に、「いつでも完璧な笑顔でいること」ができる大人は、なかなかいません。
それなのに、「常に完璧な笑顔」が求められる求める社会に対して、ワタナベイビー自身が、「いつでも完璧な笑顔でいられる訳がないだろう」と毒づいているようにも思います。
その時の笑顔がすべてをチャラにするさ
次は、こんな歌詞です。
もうすぐだね あと少しだね
その時の笑顔が全てをチャラにするさ
もうすぐだね 長かったね
早くスマイルの彼女をみせたい
ここでは、『その時の笑顔が全てをチャラにするさ』というフレーズが気になります。
これは、「都合が悪い時に、笑ってごまかす人」に対する皮肉なのではないかと思います。
世の中には、都合が悪くなると、笑ってごまかそうとする人がいます。
そして、時に、笑ってごまかせることもあります。
そういう意味では、笑顔というのは、便利なものです。
しかし、都合が悪くなるといつも笑ってごまかそうとする人を見ると、「果たしてこれでいいのだろうか?」と思ってしまうのも事実です。
人間なんかそれほどキレイじゃないから
最後の部分の歌詞も見ていきましょう。
かわいくスマイルしててね
人間なんかそれ程キレイじゃないから
すぐスマイルするべきだ
子供じゃないならね
ここでは、『人間なんかそれ程キレイじゃないから』というフレーズが強烈です。
このフレーズに、「なぜ無理をして笑顔を作るのか」という理由が凝縮されている感じがします。
人間というのは、良い面もありますが、悪い面も沢山ある生き物です。
暗い顔をしている人を見ると、気に入らないと思い、攻撃的になったりするような人も沢山います。
しかし、「常に笑顔でいる人」に対して攻撃的になる人は、あまりいません。
そういう意味では、「常に笑顔でいること」は、自分を守るための防御手段になったりします。
この歌詞では、「弱みに付け込むような汚い人間から自分を守るために、笑顔でいなさい」とアドバイスしています。
なかなかインパクトのある歌詞ですが、ある意味、「物事の本質を突いた歌詞だ」と感心してしまいます。
まとめ
ホフディランの「スマイル」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
パッと聴いた感じだと、毒のなさそうな無害な曲に思えますが、じっくり歌詞を見ていくと、かなり毒が含まれていることがわかったのではないでしょうか。
この曲の歌詞は、「笑顔でいなければ、なにかと損をしてしまう社会」に対して、中指を立てているように感じます。
ちなみに、自分としては、この曲は、マクドナルドの「スマイル0円」に対するアンチテーゼなのではないかと思っています。
1990年代の後半には、テレビで、マクドナルドの「スマイル0円」というCMが流れていました。
これは、「マクドナルドの店員は、常に笑顔でいます」というアピールです。
そして実際、「スマイルください」と言う客がいた場合には、店員がタダで微笑んだりしていたようです。
そういうのを見ると、「なんだかおかしい」と思わないでしょうか?
もちろん、マクドナルドの店員は、楽しいことがあったから笑っているのではありません。
仕事だから笑っているのです。
客に「スマイルください」と言われて微笑むのも、会社から給料が出ているからです。
給料が出ていなければ、「スマイルください」と言われても、誰も微笑まないでしょう。
また、もし客が誰も商品を買わなくなって、「スマイルください」という客ばかりになれば、会社の経営が成り立たなくなります。
その場合も、「スマイルください」と言われたところで、店員は微笑まなくなるでしょう。
マクドナルドは、CMのキャッチコピーとして、「スマイル0円」を掲げていました。
確かに、客から「スマイルください」と言われたら、店員が無料で微笑んでいたので、それは間違いではないように思ってしまいます。
しかし、よくよく考えると、「実は、スマイルは0円ではない」ということがわかります。
店員は、「客がハンバーガーや飲み物を買ってくれるから、0円で微笑んでいる」のです。
それは、果たして「0円」と言えるのでしょうか?
「スマイルください」と言われて微笑んでいる店員は、どんな気持ちだったのか想像してみてください。
きっと、微妙なストレスを感じながら、微笑んでいたのではないかと思います。
そういう微妙なストレスも、積り積もると、大きなストレスになったりします。
それを思うと、「スマイル0円」というキャッチコピーは、かなり店員のストレスになっていたのではないかと思います。
マクドナルドの「スマイル0円」というキャッチコピーは、ある意味で、「常に笑顔を求められる社会」の象徴のようなものでした。
そのため、ワタナベイビーもマクドナルドの「スマイル0円」というキャッチコピーには、違和感を覚えていたのではないかと想像します。
そして、自分としては、そういった違和感を曲として落とし込んだのが、「スマイル」ではないかと勝手に推測しています。
それが事実かわかりませんが、「スマイル0円」というキャッチコピーと、ホフディランの「スマイル」の歌詞は、かなりリンクする部分がある気がしています。
ちなみに、この曲の歌詞について「モラハラだ」と憤っている人もいるようです。
確かに、そう言う人の気持ちもわかります。
この歌詞を素直に受け止めると、「彼氏が、彼女に対してモラハラしている」と思ってしまいます。
しかし、ホフディランが好きな人にとっては、「ワタナベイビーは皮肉屋だ」ということがわかっています。
それを考慮して聴くと、「モラハラだ」とは思わずに、「ワタナベイビーが、皮肉っぽいことを言っているな」とニヤッとしてしまいます。
自分としては、こういった皮肉や毒が入っているワタナベイビーの歌詞は、結構好きだったりします。
自分以外のホフディラン好きな方も、こういう感じで聴いていた方が多かったのではないのでしょうか。
ただ、2020年に女優の森七菜さんがこの曲をカバーしましたが、プロデューサーがオリジナルの歌詞で歌わせてしまったことについては、「ちょっとどうなのかな?」と思う部分があります。
できれば、歌詞の毒っ気のある部分をソフトな表現に変えて、歌わせた方が良かったと思います。
森七菜さんは、「清純派」と呼ばれるような女優です。
皮肉を言うようなキャラではありません。
そういった女優さんがこういう皮肉っぽいことを歌うと、かなり違和感があります。
そして、ワタナベイビーがこういうことを歌うよりも、嫌な印象を受けてしまう場合もあるはずです。
実際に、森七菜さんがこの曲を歌っているのを聴いて、「笑顔を強要する嫌な女」と感じた人もいると思います。
ただ、本人は、この歌詞に込められた皮肉の部分をしっかりと理解せずに歌っている感じがします。
おそらく、「プロデューサーから歌えと言われたから、そのまま歌っている」という感じでしょう。
それにも関わらず、聴いた人から「嫌な女」という印象を持たれてしまうのは、少しかわいそうな感じがします。
プロデューサーは、その辺を考慮して、もっとソフトな歌詞に変えてカバーすればよかったのにと思います。
その点は、ちょっと残念ですね。
YouTubeにMVがアップされていますので、興味のある方は、MVを見てみてください。
森七菜さんの話が長くなってしまったので、本題に戻ります。
この曲を聴いたことがあっても、「歌詞にそんな毒が含まれていることは知らなかった」という人は結構いると思います。
もし、この記事を読んで、そういった毒や皮肉に気づいた方は、改めてこの曲を聴き直してみてください。
そうすると、ガラッと曲の印象が変わって、なかなか面白いと思います。