「音楽を聴くことが好き」という方は多いと思います。
音楽を聴くことは楽しいですが、音楽を聴く時に問題となってくるのが、「音楽と、それを作っているミュージシャンとの思想」との関係です。
例えば、ラジオやYouTubeなどで偶然ある音楽を知って、「この音楽、とてもいい!」と思ったとします。
そうなると、「どういうミュージシャンが作っているのかな?」と調べたりするでしょう。
そして、そのミュージシャンが他にも沢山好みの曲を作っていた場合、そのミュージシャンのファンになりします。
ファンになると、インタビューやSNSへの投稿も読むようになります。
「好きなミュージシャンは、普段どんなことを考えているのかな?」と興味が湧くからです。
しかし、インタビューやSNSへの投稿を読んでいくと、時に、「あれ、この人の考え方に、どうしても共感できない」と思うことがあります。
そういった場合、ファンによって対応は分かれます。
大きく分けると、「その音楽自体が好きならば、思想に共感できなくても聴く」という人と、「ミュージシャンの思想に共感できなければ、作っている音楽が良くても聴きたくない」という人が出てくると思います。
自分の場合、昔は前者の考え方でした。
「音楽が良ければ、作ったミュージシャンの思想に共感できなくても、思想と切り離して音楽を楽しめばいい」と思っていました。
しかし、最近は、考え方が変わり、「そのミュージシャンの根本的な思想に共感できなければ、いくら音楽が良かったとしても、聴かなくていいかな」と思うようになりました。
そう思いはじめたのは、RADWIMPS(ラッドウィンプス)のボーカルである野田洋次郎さんのツイッターでのつぶやきを見たことがきっかけでした。
以下に、そのつぶやきの内容を引用します。
このつぶやきは、2020年の7月16日に投稿されました。
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
お父さんはそう思ってる。
#個人の見解です
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) 2020年7月16日
お父さんはそう思ってる。#個人の見解です
このつぶやきを読んで、まず「なんだか気持ち悪いな」と違和感を覚えました。
そして、このつぶやきを何度か読み返すうちに、「このつぶやきには、短い文章の中に、様々な問題が含まれている」と気づきました。
ここで挙げられている「大谷翔平選手」「藤井聡太棋士」「芦田愛菜さん」の3名は、非常に優れた才能を持った人たちです。それは、誰もが認めることでしょう。
「大谷翔平選手」は、優れた野球選手ですし、「藤井聡太棋士」は優れた棋士です。「芦田愛菜さん」も優れた女優です。
しかし、このつぶやきでは、「そういった人たちの配偶者は、国が専門家を集めて選定するべき」と言っています。ここには、大きな問題点が含まれています。
まず、「配偶者を選定する」ということになると、この3名の「自由に恋愛して、配偶者を自分で決める権利」が奪われます。
「国が配偶者を決める」ということになると、自分で自由な結婚相手を選べない訳ですから。
また、この発想は、「この3名の中に同性愛者がいるかもしれない」ということを全く無視した発言です。
仮に同性愛者がいた場合、「国が結婚相手を決める」となると、望んでいなくてもその相手と結婚せざるをえません。
「異性との結婚を望んでいないのに、無理矢理異性と結婚させる」というのは、重大な権利の侵害です。
また、この方式で結婚相手を選び、子供が生まれてきたとしたら、その子供の権利も奪われてしまう可能性が高くなります。
例えば、大谷翔平選手に子供が生まれて、その子供が「野球選手ではなく、俳優になりたい」と言い出したらでしょうか。
国家プロジェクトとして配偶者を決めて生まれた子供ですから、きっと周囲は本人の意思を尊重せず、野球選手への道を歩ませるでしょう。その結果、その子が野球選手になれたとしても、果たしてその子は幸せなのでしょうか?
ここで述べられている野田さんの考え方は、「優生思想」そのものです。
彼は、ここで、「優れた遺伝子を持つ者は、国によって保護されるべき」と言っています。
しかし、それは、裏を返せば、「国家にとって価値のない遺伝子を持つ者は、排除しても構わない」と言っているのと同じです。
野田さん本人は否定するとは思いますが、この発想はナチスの思想と根本部分は一緒だと思います。
野田さんは、このつぶやきが炎上した後、「冗談です」と付け加えています。
ただ、自分としては「冗談」で片付けられる発言ではないと思います。
この発言によって不快になったり、傷つく人は沢山いますから。
そして、冗談だったしても、彼の根本に優生思想があるというのは、疑いのない事実です。
自分は、元々、ラッドウィンプスの大ファンというわけではありません。
ただ、曲や歌詞を作る才能はあると感じていて、好きな曲も沢山ありました。
しかし、今回のこの発言を見てから、もう今後は、ラッドウィンプスの音楽は聴かないことに決めました。
ラッドウィンプスの楽曲にはラブソングが多いです。
そして、「好きな人がこの世に生まれてきてくれて、その人と出会えた喜び」について歌った歌詞が多いです。
しかし、彼の思想からすると、「好きな人が生まれた時は祝福するが、自分や国にとって価値のない人が生まれた時は祝わない」ということになります。
そのため、ラッドウィンプスのラブソングは、「万人に向けたラブソングではなく、『自分や国にとって価値のある人だけに向けたラブソング』ということになります。
そう思うと、一気に冷めます。
そして、表面上は「恋愛の素晴らしさ」を歌っていたとしても、「優れた遺伝子を持っている人は、恋愛する相手を国が決めていい」という思想を持っていることが分かってしまったら、曲の説得力がなくなります。
そのため、自分は、この発言を見てからは、ラッドウィンプスのラブソングを、これまでのような気持ちで聴けなくなりました。
どんなに楽曲として素晴らしいラブソングだったとしても、「あ、この人は、『国にとって価値のある遺伝子を持った人』に向けて歌ってるんだな」と考えた瞬間、一瞬で興ざめしてしまい、どうしても音楽を楽しめないのです。
今回の件で、「どうしても共感することのできない思想を持ったミュージシャンの楽曲は、なるべく聴かない方がいいな」と、はっきりと思いました。
それが、日本語の歌詞で歌っているミュージシャンならなおさらです。
いくら素晴らしい歌詞の楽曲でも、根本的な思想に共感できなければ、その歌詞の素晴らしさが台無しになるからです。
だから、好きなミュージシャンがいる人は、楽曲を聴くだけでなく、普段の発言もチェックしておくことをおすすめします。
そうしておいた方が、思想に共感できないミュージシャンを早めに見つけることができます。
そして、発言をチェックして、そのミュージシャンの思想に共感できた場合は、楽曲がより魅力的に聴こえるようになるというメリットもあります。
やっぱり、音楽を作るのは人なので、「どのような人が作っているか」は、非常に重要です。