スピッツ「ハチミツ」の歌詞の考察を行います。
「ハチミツ」は、1995年にリリースされたアルバム「ハチミツ」に収録されています。
アルバムのタイトルトラックになっています。
この曲については、「かわいらしい曲」というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
確かに、曲調もポップで、歌詞もかわいらしい部分が多いので、それは間違っていません。
ただ、歌詞をじっくり見ていくと、ただかわいらしいだけではない「深さ」と、草野さんならではの「歌詞作りの巧みさ」が見えてきます。
そこで今回は、この曲の歌詞を考察し、「草野さんの歌詞の作りの巧みさ」についても見ていきます。
この曲の作詞・作曲者は、草野マサムネです。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「ハチミツ」の歌詞の考察
1番のAメロの歌詞
一人空しくビスケットの しけってる日々を経て
出会った君が初めての 心さらけ出せる
『ビスケットのしけってる日々』というのは、「さえない日々」という意味でしょう。
この曲の主人公は、これまで、一人で空しく、さえない日々を送っていたようです。
この部分を見て、「歌詞の作り方がうまいな~」と感心してしまいました。
さえない日々のことを、「しけった日々」と表現する人は、草野さんの他にもいると思います。
ただ、草野さんの凄いところは、そこに『ビスケットの』とつけ加えたところです。
これをつけることによって、「草野さん特有の、唯一無二の表現」となっています。
もしこれが、「一人空しく しけってる日々を経て」という歌詞だったとすると、どうしても、「主人公の悲惨な感じ」が強調されてしまいます。
しかし、これに、『ビスケットの』という言葉がつくと、どことなく「かわいさ」が出てきます。
そうなると、「悲惨な中にも、どこかかわいさとユーモアのある表現」になって、ネガティブな雰囲気になりすぎません。
この辺のバランスの取り方は、絶妙です。
次に、『出会った君が初めての 心さらけ出せる』という歌詞が続きます。
ここで『君』が初めて出てきます。
主人公は、『君』と出会って、「この人は、今まで生きてきて初めて、自分の心を素直にさらけ出せる相手だ」と感じたようです。
1番のサビの歌詞
素敵な恋人 ハチミツ 溶かしてゆく
こごえる仔犬を 暖めて
懐かしい遊びが 甦るのは
灯りの場所まで綱渡りしたから
サビの最初に、『素敵な恋人 ハチミツ 溶かしてゆく』という歌詞があります。
『溶かしていく』とは、いったい何を溶かしていくと言っているのでしょうか?
これはおそらく、「主人公の心の中の凍った部分」でしょう。
主人公は、ずっと、一人でさえない日々を送っていました。
すると、次第に、心の中に、「氷のような硬く凍った部分」ができてきます。
そうなると、「何をしても面白くない」という風になりがちです。
主人公の心の中は、きっとそうなっていたのでしょう。
しかしある時、人生で初めて、「心をさらけ出せる素敵な人」に出会いました。
それにより、硬い部分が、少しずつ溶け始めてきて、人生を楽しめるようになったのだと思います。
そう考えると、『素敵な恋人 ハチミツ 溶かしてゆく』という歌詞は、「ハチミツのような甘い素敵な恋人に出会って、心の中にある氷のような硬い部分が解けていく」といったような意味だと推測できます。
次に続く『こごえる仔犬』というのも、「主人公の心の中の凍った部分」のことだと思います。
こごえる仔犬のように、主人公の心の中も、冷え切っていたのでしょう。
しかし、『君』と出会ったことで、「心の中のこごえる仔犬」も、徐々に暖められていったのだと思います。
その後の『懐かしい遊びが 甦るのは』という部分は、なかなか解釈が難しかったりします。
ただ、自分としては、『懐かしい遊び』というのは、「子供の頃感じていた、素直に遊びを楽しむ心」という意味だと解釈しました。
人は、大人になるにつれ、「社会の厳しさ」に直面します。
「社会の厳しさ」に直面すると、「頑張らなきゃ」という気持ちが強くなり、子供の頃感じていた「楽しむこと」を忘れがちになります。
きっと、主人公も、社会にもまれてさえない日々を送るうちに、「子供の頃感じていた、素直に楽しむ心」を忘れていたのでしょう。
しかし、主人公は、『君』と出会ったことで、素直に「楽しい」と思えるようになったのだと思います。
それがきっと、「子供の頃、素直に遊びを楽しんでいた気持ちと似ている」と思ったのでしょう。
そのため、『懐かしい遊びが 甦る』という歌詞は、「子供の頃感じていた、素直に遊びを楽しんでいた頃の気持ちが甦ってきた」という意味だと思います。
次の『灯りの場所まで綱渡りしたから』という歌詞も、解釈が難しい部分です。
自分は、『綱渡りした』というのは、「危険を冒した」と解釈しました。
そして、『灯りの場所』というのは、「暖かい場所」という意味のように思えます。
「君と恋人同士になって、暖かい場所を手に入れた」ということではないでしょうか。
それを考えると、『灯りの場所まで綱渡りした』という歌詞は、「君と恋人同士になって、暖かい場所を手に入れるために、勇気を振り絞って告白した」という意味ではないかと思います。
2番のAメロの歌詞
ガラクタばかりピーコートの ポケットにしのばせて
意地っ張り シャイな女の子 僕をにらみつける
この部分の歌詞は、まず、ただの『コート』ではなく、『ピーコート』にしているところが非常にうまいなと感じます。
「コート」ではなく、『ピーコート』にすることで、素敵な女の子が、ピーコートを羽織っている姿をパッと想像することができます。
また、ただの「コート」よりも、『ピーコート』の方が音の響きがかわいくなるので、それも『ピーコート』という歌詞にした理由の一つかもしれません。
『ガラクタばかりピーコートの ポケットにしのばせて』というのは、実際にポケットにしのばせているのではなく、「比喩」ではないかと思います。
『君』は、「人から見たらガラクタに見えるようなもの」を心の中にしのばせているのでしょう。
『意地っ張り』という歌詞を見ると、人からそれをバカにされても、自分ではそれをとても大事にしているということが推測できます。
『僕をにらみつける』というのは、「この人も、自分の大切にしているものをバカにするのではないか?」と少し疑っているということだと思います。
ただ、主人公は、「そういう、芯があって意地っ張りな部分もかわいい」と思っていそうな気がします。
2番のサビの歌詞
おかしな恋人 ハチミツ 溶かしてゆく
蝶々結びを ほどくように
珍しい宝石が 拾えないなら
二人のかけらで 間に合わせてしまえ
2番のサビでは、『おかしな恋人』という歌詞が出てきますが、これはどのような意味でしょうか?
これは、「はたから見たら、二人はおかしな恋人に見える」という意味ではないでしょうか。
『君』は、「他の人見たらガラクタに見えるようなものを心の中にしのばせている」ので、
はたから見たら、「ちょっと変わった人だな」と思われるような人ではないかと推測します。
そして、主人公も、そんな『君』と気が合っているので、はたから見たら、「ちょっと変わった人」と思われている可能性が高い気がします。
そういう意味で、『おかしな恋人』と言っているのではないでしょうか。
ただ、主人公と『君』は、きっと、「自分たちは別におかしくはない」と思っているはずです。
これは、本当におかしな恋人ということではなく、「世間と少し価値観がずれている二人」というニュアンスだと思います。
次の『蝶々結びを ほどくように』という部分は、草野さんの作詞技術の高さがうかがえる歌詞です。
『蝶結び』ではなく、『蝶々結び』としているところが凄いと感じます。
普通は、『蝶結び』と言いたくなるところを、あえて『蝶々結び』にしています。
この2つの単語を比べてみると、『蝶々結び』の方が、明らかにかわいい感じが増します。
そして、そのかわいさが、この曲の雰囲気に合っています。
些細な違いではありますが、あえて『蝶々結び』という単語を選択したところに、草野さんの作詞家としての凄さが表れています。
そして、『溶かしてゆく 蝶々結びを ほどくように』という歌詞は、「まるで、蝶結びをほどくように、簡単に、心の凍った部分が溶けていく」という意味でしょう。
『珍しい宝石が 拾えないなら 二人のかけらで 間に合わせてしまえ』という部分は、なかなか意味深です。
ここは、色んな解釈ができると思います。
自分としては、『宝石』というのは、「お金」という意味だと解釈しました。
『珍しい宝石が 拾えないなら』というのは、「お金がなくて、ぜいたくができないなら」という意味だと思います。
きっと二人は、まだ若く、お金がないのでしょう。
そのため、ぜいたくな生活はできないのだと思います。
ただ、それでも、がっかりしている様子はありません。
その後の『二人のかけらで 間に合わせてしまえ』という歌詞は、「お金がなくてぜいたくな生活ができなくても、二人で工夫して、楽しい生活を送って行こう」という意味だと思います。
この歌詞を見ると、主人公と『君』は、「世間が思う良い生活ではなく、二人が思う良い生活を追及していきたい」気持ちを持っていると考えられます。
この部分の歌詞からは、草野さんの持つ「DIY精神」を感じますね。
スピッツは、インディーズ時代は、パンクロックを演奏するパンクバンドでした。
そのため、草野さんの根底には、「パンク精神」や「DIY精神」がある気がします。
「DIY精神」というのは、「自分たちのことは、自分たちでやろう」という考え方のことです。
パンクロッカーは、この精神を持っている人が多く、ただ曲を演奏するだけでなく、レーベルの運営も自分たちで行っているバンドが構います。
なぜそんな大変なことをするのかというと、「お金がない」というのも理由の一つだと思いますが、そうした方が、「バンドの表現をそのままリスナーに伝えやすくなるから」です。
様々な人を介してしまうと、「バンドメンバーがやりたかった形で音源をリリースできない」ということが起こりやすくなるので、それを避けるため、自分たちでレーベルもやるのでしょう。
今のスピッツは、メジャーレーベルに所属しているので、スタッフが沢山いて、音源のリリースや宣伝活動については、他の人に任せているでしょう。
ただ、草野さんはパンクあがりなので、メジャーになった今も、「DIYでやっている人たちに対する憧れ」や「そういう人たちに対するリスペクト」がありそうな気がします。
そのため、『二人のかけらで 間に合わせてしまえ』という歌詞は、草野さんの隠れた「DIY精神」が表れた歌詞だなと思ったりします。
「ハチミツ」というタイトルについて
一通り、歌詞の解釈をしてきましたが、ここからは、なぜこの曲が「ハチミツ」というタイトルになったのかについて考察していきます。
このタイトルは、おそらく、英語で「恋人」のことを表す「honey(ハニー)」を日本語に訳したものでしょう。
「honey(ハニー)」は、「ハチミツ」という意味もあるので、「甘い恋人の歌だから、ハチミツ」という感じでつけたのではないでしょうか。
それを聞くと、「なんだ、そんな単純な理由か」と思う人もいるでしょう。
ただ、よくよく考えてみると、これはかなりとんでもないことです。
日本の曲で、恋人のことを歌って「honey」というタイトルをつけた曲や、「honey」がタイトルについている曲は、結構あります。
ただ、恋人のことを歌って、「ハチミツ」というタイトルをつけている曲は、この曲以外には、ほとんどありません。
おそらく、honeyの和訳で「ハチミツ」というタイトルだと、「あまりにストレートすぎてちょっと」と思う人が多いので、「ハチミツ」というタイトルの曲がほとんどないのだと思います。
みんなが、「さすがにそれはちょっと」と思うようなことを、サラッとやってしまうところに、草野さんの凄さを感じます。
そのため、「ハチミツ」というタイトルは、「単純だけど、実は非常に革新的なタイトル」と言うことができるのではないでしょうか。
そして、「ハチミツ」というタイトルが、かわいらしい曲の雰囲気とばっちり合っているところも素晴らしいですね。
まとめ
スピッツ「ハチミツ」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
この曲は、歌詞がかわいいですが、ただかわいらしいだけなく、背後に様々な意味が隠されていることがわかったと思います。
また、歌詞の細部を見ていくと、草野さんの作詞家としての巧みさに唸らされる曲でもあります。
「この曲の歌詞をじっくり聴いたことがなかった」という方は、この記事の内容を頭に入れつつ、改めてこの曲を聴き直してみてください。
歌詞の深さに気づくと、この曲の魅力がさらに魅力的に感じると思います。