ブルーハーツ「夜の盗賊団」の歌詞の考察を行います。
「夜の盗賊団」は、オリジナルアルバムでは、1993年にリリースされた「DUG OUT」に収録されています。
ベストアルバムでは、「ALL TIME MEMORIALS Ⅱ」に収録されています。
「夜の盗賊団」は、ブルーハーツにしては珍しく、しっとりしたメロウな曲です。
このタイトルを聞くと、誰もが「盗賊団のことを歌った歌だろう」と思うでしょう。
しかし、歌詞をじっくり見ていくと、「単純に盗賊団のことを歌った歌ではないかも」と気づいてきます。
そこで今回は、この歌詞を考察して、歌詞に隠された意味を探っていきます。
この曲の作詞・作曲者は、真島昌利(マーシー)です。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「夜の盗賊団」の歌詞の考察
レンタカーで走りながら 流れ星をたくさん見たよ
まずは、冒頭の歌詞を見ていきます。
プラネタリウムみたいな 満天の星空の下
レンタカーで走りながら 流れ星をたくさん見たよ
最初は、『プラネタリウムみたいな 満天の星空の下』というロマンチックな歌詞が来ます。
次は、『レンタカーで走りながら』という歌詞が続きます。
ここで少し、「あれ?」と思います。
盗賊団がレンタカーを借りて犯行に及んだりしたら、すぐに足がついてしまいそうなので。
ここで、まず、ちょっとした違和感を覚えます。
ただ、この部分の歌詞を見ると、「盗賊団が夜に車を走らせている様子」が頭に浮かびます。
5月の風のビールを飲みにいこう
さらに歌詞を見ていきます。
今夜 多分雨は大丈夫だろう
今夜 5月の風のビールを飲みにいこう
ここでは、『5月の風のビールを飲みにいこう』という印象的なフレーズが出てきます。
このフレーズは、厳密に言うと、文法的には間違っているかもしれません。
普通、日本語では『5月の風のビール』とは言いません。
「5月の風に吹かれながら、ビールを飲みにいこう」と言った方が、文法的には正しいと思います。
ただ、「5月の風に吹かれながら、ビールを飲みにいこう」という歌詞にしてしまうと、字余りになってしまいますし、インパクトも薄くなります。
文法的には間違っているかもしれませんが、『5月の風のビール』という歌詞にした方が、メロディに対して言葉がしっかりと乗ります。
そして、聴いた時に、このフレーズが頭に残ります。
あえて、文法的には間違っている『5月の風のビール』という言葉を選んだマーシーのセンスはさすがだなと思います。
文法的には間違っていたとしても、『5月の風のビール』と聴くと、情景がパッと頭の中に浮かびます。
ビール好きな方は、この歌詞を聴くと、きっと「5月の風のビールを飲みにいきたいな~」と思うはずです。
低気圧がでしゃばっている
続きの歌詞も見ていきましょう。
防砂林の向こう側 花火が闇を照らしだす
カーラジオがしゃべっている 低気圧がでしゃばっている
『花火が闇を照らしだす』という歌詞を見ると、花火がどこかで上がっているようです。
5月に花火というのは、少し早い気がしますが、まあ、ありえなくはないと思います。
『カーラジオがしゃべっている』というのは、「カーラジオから、DJの話し声が聞こえてくる」ということでしょう。
『低気圧がでしゃばっている』というのは、なかなか面白い表現ですね。
この歌詞は、「マーシーならではの表現だな」と思います。
これはきっと、ラジオのDJが、天気予報で、「低気圧が発達してきています」と喋っているという意味でしょう。
とりたての免許で 僕等は笑ってる
さらに歌詞を見ていきます。
とりたての免許で 僕等は笑ってる
夜の盗賊団 たくさん秘密を分け合おう
ここで、『とりたての免許』という歌詞が出てきますが、ここでも、「ちょっとおかしい」と感じます。
車の免許をとりたての人が、レンタカーを借りて、仲間と強盗をしに行ったりするでしょうか?
全く可能性がない訳ではないですが、普通は「そんな盗賊団はいないだろ」と思うはずです。
そういったことを考えると、この曲は、「盗賊団のことを歌っている歌ではない」と解釈することができます。
この曲は、おそらく「20代前半の若者たちが、レンタカーを借りて、夜にドライブをする歌」だと思います。
そう解釈した方が、色々とつじつまが合ってきます。
そして、ここで借りた車は、「トヨタのハイエース」のようなバンではないかと想像します。
この曲の主人公は、仲間と、「バンに乗って大勢で夜にドライブに行くのは、なんだか盗賊団みたいだね」と盛り上がったのではないでしょうか。
マーシーは、「若者たちが、“夜の盗賊団ごっこ”をしている」という意味で、「夜の盗賊団」というタイトルをつけたのだと推測します。
そして、その後には、『たくさん秘密を分け合おう』という歌詞が来ます。
これは、どういった意味でしょうか?
おそらく、「若者たちが、車の中で“普段はなかなか言えないような秘密”を次々と暴露していた」ということでしょう。
本物の盗賊団は、犯行に及ぶ際、「絶対他の人には言うな」と秘密を分け合います。
それと同じように、この曲に出てくる若者たちも、秘密を分け合っていたのでしょう。
夜光虫が光ってる 可能性は輝いてる
続きの歌詞も見ていきます。
夜光虫が光ってる 可能性は輝いてる
誰かが忘れて帰った サンオイルがこぼれている
『夜光虫が光ってる 可能性は輝いてる』という部分も、素晴らしい歌詞だと思います。
おそらく、車を走らせていて、窓の外を見たら、夜光虫が光っていたということでしょう。
そして、「あの夜光虫と同じように、自分たちの可能性も輝いているな」と思ったということだと思います。
この曲の主人公とその仲間は、まだ若いと思われるので、余計に「自分たちの可能性は輝いている」と思ったのかもしれません。
その後の、『誰かが忘れて帰った サンオイルがこぼれている』という歌詞を見ると、「主人公とその仲間は、きっと夜の浜辺に寄って、サンオイルがこぼれているのを見たんだろうな」と推測することができます。
「浜辺」という単語を使わずに「浜辺に寄ったのだろうな」と推測させる歌詞の作り方は、「さすがだな」と感心してしまいます。
何気ない一節ですが、この一節があることで、この曲の中に流れる「情緒」が、さらに引き立っているように感じます。
まとめ
ブルーハーツ「夜の盗賊団」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
歌詞をじっくり見ていくと、「実は、盗賊団のことを歌った歌ではない」ということがわかったと思います。
ただ、これは、マーシーが「盗賊団の歌ではない」と語っていた訳ではないので、「絶対に盗賊団の歌ではない」と言い切ることはできません。
強引に解釈すれば、「この曲は盗賊団の歌だ」と考えることも可能です。
しかし、歌詞を一通り見ると、盗賊団の歌ではなく、「若者たちが、夜に車でドライブに行く歌」と解釈するのが自然なのではないかと思います。
タイトルで「盗賊団」と言っておきながら、盗賊団のことを歌っていないというのは、とても面白いですね。
この曲は、「詩人・マーシー」ならではの表現が散りばめられた、素晴らしい歌詞となっています。
歌詞の端々で、「情緒」を感じさせてくれるのは、さすがマーシーだと思います。
この曲の歌詞をじっくり聴いたことがなかった方は、改めて、歌詞の意味を考えながら聴くと、さらにこの曲の魅力が広がると思います。
そして、ビールが好きな方は、5月になったら、この曲を車の中でかけながら、仲間と、『5月の風のビール』を飲みに行くといかもしれません。