ブルーハーツ「人にやさしく」の歌詞の考察を行います。
「人にやさしく」は、1987年にリリースされたシングルです。
ブルーハーツがまだメジャーデビューする前に、インディーズレーベルから発売されました。
アルバムだと、ベストアルバムに収録されています。
この曲は、CMやドラマなど、様々なところで使われているので、一度は聴いたことがあるという人が多いでしょう。
ブルーハーツの中でも特に有名な曲で、「ブルーハーツの代表曲」と言えるような曲です。
この曲は、「ガンバレ!」というフレーズが非常に耳に残る曲です。
そのため、「前向きな応援ソング」と捉えている人も多いと思います。
しかし、歌詞をじっくり見ていくと、「前向きな応援ソング」という単純な言葉では片づけられない、深い意味が隠されています。
そこで今回は、「人にやさしく」の歌詞を考察して、この歌詞に隠された意味を探っていきます。
この曲の作詞・作曲者は、甲本ヒロトです。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「人にやさしく」の歌詞の考察
1番の冒頭の歌詞
まずは、1番の冒頭の歌詞を見ていきます。
気が狂いそう やさしい歌が好きで
ああ あなたにも聞かせたい
いきなり、『気が狂いそう』という強烈な歌詞が来ます。
この歌詞を見ると、「この曲の主人公は、精神的にまいっているのかな?」と思わされます。
『やさしい歌が好き』というのは、精神的にきつい状況だからこそ、やさしい歌が聴きたいのかもしれません。
その後、『あなたにも聞かせたい』という歌詞が来ますが、この『あなた』というのは、誰のことでしょうか?
この歌を聴いている人に向けて『あなた』と言っているような気もしますが、はっきりわかりません。
ただ、歌詞を最後までじっくり見ると、『あなた』が誰を指しているのか、なんとなくわかってきます。
このまま僕は 汗をかいて生きよう
次の歌詞も見ていきましょう。
このまま僕は 汗をかいて生きよう
ああ いつまでも このままさ
『このまま僕は 汗をかいて生きよう』というのは、「この先も、必死で生きる」ということでしょう。
『いつまでも このままさ』というのは、「今後、成功してお金が入ってきて、生活が豊かになったとしても、変わらないよ」ということではないでしょうか。
マイクロフォンの中から ガンバレって言っている
1番のサビの歌詞を見ていきます。
僕はいつでも 歌を歌う時は
マイクロフォンの中から ガンバレって言っている
聞こえてほしい あなたにも
ガンバレ!
『歌を歌う時』という歌詞が出てくるので、この曲の主人公は、「歌手」のようです。
ということは、この曲の主人公は、架空の人ではなく、「甲本ヒロト自身」である可能性が高いと思います。
そう考えると、この曲の歌詞は、「ヒロト自身の気持ち」が反映されているのではないでしょうか。
そういった想定で、ここからの歌詞をじっくり見ていきましょう。
『僕はいつでも 歌を歌う時は マイクロフォンの中から ガンバレって言っている』という歌詞を見ると、ヒロトには、「リスナーを励ましたい」という気持ちがあるようです。
『聞こえてほしい あなたにも』というのは、リスナーに対して、「歌詞に込めた応援する気持ちに気づいてほしい」ということでしょう。
2番の冒頭の歌詞
2番の冒頭の歌詞を見ていきます。
人は誰でも くじけそうになるもの
ああ 僕だって 今だって
人は、誰でも、うまくいかないとくじけそうになるものです。
そういう人に向けて、ヒロトは、「僕だって同じだよ」と言っています。
叫ばなければ やり切れない思いを
続きの歌詞を見ていきます。
叫ばなければ やり切れない思いを
ああ 大切に 捨てないで
ここでは、「やり切れない思いがあるのなら、叫ぼう」と言っています。
そして、その『やり切れない思い』を『大切に 捨てないで』と言っています。
これは、なかなかユニークな歌詞です。
普通、歌詞では、「やり切れない思いは、捨ててしまえ」と歌うパターンが多いと思います。
しかし、ここでは、それとは真逆で、『大切に 捨てないで』と言っています。
これは、どういう意味なのでしょうか?
おそらく、「やり切れない思いがあると、それをバネにして頑張れることもあるから、その思いを大切にしよう」という意味ではないかと思います。
2番のサビの歌詞
2番のサビの歌詞を見ていきます。
人にやさしく してもらえないんだね
僕が言ってやる でっかい声で言ってやる
ガンバレって 言ってやる 聞こえるかい
ガンバレ!
『人にやさしく してもらえないんだね』という歌詞を見ると、「普段、人にやさしくしてもらえていない人に向けて言っている」ということがわかります。
そういう人に対して、でっかい声で『ガンバレ!』と言ってあげるようです。
ただ、これは、直接言うという訳ではなく、「歌を通して、ガンバレと言ってやる」という意味でしょう。
3番の冒頭の歌詞
3番の冒頭の歌詞を見ていきます。
やさしさだけじゃ 人は愛せないから
ああ なぐさめてあげられない
この歌詞では、「やさしさだけでは、人を愛するには不十分だ」と言っています。
やはり、人を愛するには、優しさだけでなく、「強さ」や「厳しさ」も必要ということでしょう。
「中途半端なやさしさ」というのは、時に人を傷つけることがあります。
傷ついている人に対して、やさしい言葉をかけても、相手が「これは上辺の言葉だな」と相手が気づく時があります。
そうなると、相手の心は余計に傷つきます。
ヒロトは、そういったことがわかっているので、「中途半端になぐさめられない」という意味で、『なぐさめてあげられない』と言っているのでしょう。
3番のサビの歌詞
3番のサビの歌詞を見ていきます。
期待はずれの 言葉を言う時に
心の中では ガンバレって言っている
聞こえてほしい あなたにも
ガンバレ!
『期待はずれの言葉』というのは、どういった言葉でしょうか?
これはおそらく、相手が「なぐさめの言葉を言ってほしいな」と思っている時に、あえてなぐさめの言葉は言わないということでしょう。
ヒロトは、安易ななぐさめの言葉が、人を傷つけることを知っているからです。
そのかわり、声には出さずとも、心の中で応援しているようです。
『聞こえてほしい』というのは、おそらく、「心の中で応援していることに気づいてほしい」という意味だと思います。
まとめ
ブルーハーツ「人にやさしく」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
この曲は、歌詞をよく見てみると、実は、「万人を励ましている曲」ではないことに気づきます。
「はみだし者」を励ましている曲なのです。
この曲の主人公は、おそらく甲本ヒロト自身だと推測しました。
そう考えると、1番の冒頭の『気が狂いそう』というのは、ヒロト自身のことだとわかります。
ヒロトは、学生時代、周りと価値観が合わなくて悩んでいたそうです。
そんな中で、『気が狂いそう』になった経験があるのだと思います。
そういったことをふまえると、この曲は、「気が狂いそうな人が、誰からも優しくされない人に対して『ガンバレ!』と言っている歌」と言うことができます。
つまり、「ガンバレ!」と言っている方も、言われている方も、「両方、同じはみだし者」なのです。
「気が狂いそうになっている人」というのは、おそらく、社会に適応できないからこそ、そうなっているのだと思います。
学校や会社といった社会に出て、周囲に価値観の合う人ばかりであれば、まず『気が狂いそう』になることはないでしょう。
逆に、価値観が合わない人ばかりが周囲にいると、「自分はおかしいのか?」と思い、『気が狂いそう』になったりします。
そして、周囲と価値観が合わず、社会にうまく適応できず、気が狂いそうになっている人は、「はみだし者」とみなされます。
そして、「誰からもやさしくされない人」というのも、「はみだし者」と言えます。
社会に上手に適応できている人は、大抵、多くの人と繋がりを持っています。
そして、落ち込むようなことが起こっても、周囲になぐさめてくれる人が沢山いるので、すぐに気分を回復させることができます。
「多くの人と繋がりを持っている人」というのは、有利な面が多いため、自然と社会的に強い立場になります。
そして、そういう人には、さらに人が寄ってきて、社会的立場がどんどん強くなっていったりします。
しかし、人付き合いが苦手な「誰からもやさしくされない人」の場合は、何か落ち込むことがあった時に、周囲になぐさめてくれる人はいません。
そうなると、さらに気分は落ち込みます。
そして、なかなか気分が上がらないと、周囲から「あの人は、いつも暗い」「陰気で嫌だね」と言われ、余計に人が離れていくという悪循環に陥ります。
そうなると、さらに社会的な立場が弱くなってしまいます。
これは非常にしんどい状況です。
ヒロト自身、「自分は、はみ出し者である」という意識があるのだと思います。
だからこそ、同じはみ出し者である「誰からもやさしくされない人」の辛さがよくわかるのでしょう。
その辛さがよくわかるからこそ、『ガンバレ!』と応援しているのだと思います。
また、この曲の主人公は、「直接相手を励ましている訳ではない」というのも大きなポイントです。
歌詞をよく見てみると、主人公は、「誰からもやさしくされない人」に対して、直接励ましていません。
「歌を歌う」「心の中で励ます」という、間接的な形を取っています。
これは、なぜなのでしょうか?
おそらく、直接励ますと、励ましではなく、「同情」という形になりやすいからだと思います。
「同情」になることを避けるために、間接的に励ましているのでしょう。
「やさしくする」という行為は、時に、「強い者が弱い者に同情する」という形で行われる場合があります。
そういうやさしさは、「弱い者」にとっては、屈辱です。
同情されると、「相手から見下されている」ということがわかるからです。
そして、直接的に励ますと、励ます側にその気がなくても、相手からは「見下された」と思われることもよくあります。
直接励ますと、そう思われてしまうリスクが高まります。
しかし、「間接的に励ます」ようにすると、そう思われるリスクを減らせます。
「歌に励まされた」経験がある人は多いと思いますが、そういう人は、あまり「歌手から見下された」とは思わないはずです。
歌は間接的なものなので、「見下された」という気持ちにはなりにくいのでしょう。
また、「言葉では励ましていないけれど、励ますような態度を見せてくれた」という場合も、間接的な励ましなので、「見下された」という気持ちにはなりづらかったりします。
ヒロトは、そういったことを直感的に理解しているのだと思います。
だからこそ、この歌の中で、直接励まさずに、「間接的に励ます」という形を取っているのだと思います。
この曲は、歌詞の言葉の端々に、弱者に対する細かな気遣いがあるので、「社会にうまく適応できなくて傷ついている人の心」に響くのでしょう。
弱者を励ましていますが、嘘くささがない点が素晴らしいと思います。
この曲の1番の冒頭は、『気が狂いそう』で始まります。
その後に、『やさしい歌が好きで』と続きます。
この『やさしい歌』というのは、おそらくパンクロックのことだと思います。
こう言うと、「なんでパンクロックがやさしいの?」と疑問を持つ人が多いと思います。
大抵の人は、「パンクロックは、攻撃的で、やさしくない音楽だ」と考えているからです。
しかし、ヒロトは、そうは考えていないはずです。
彼は、パンクロックを初めて聴いた時、「自分と同じような奴らがやっている音楽だ」と思ったそうです。
パンクロックというのは、基本的に「社会からはみだしている人」がやる音楽です。
そのため、「自分は、はみだし者だ」という意識があるヒロトは、パンクロックを聴いて「こいつらきっと、自分と同じようなはみだし者なんだろうな」と思ったのでしょう。
そして、「仲間がいた」と思って、「自分を肯定してくれる感じ」を得たのだと思います。
それを「やさしい」と感じたのでしょう。
そして、その後に続く『あなたにも聞かせたい』という歌詞の『あなた』というのは、全てのリスナーに向けて言っているのではないと思います。
おそらく、『誰からもやさしくしてもらえない人』に向けて言っています。
そういう人に対して、「パンクロックという、はみだし者がやっているやさしい音楽があるよ」と言いたいのでしょう。
ブルーハーツの「人にやさしく」も、速いパンクナンバーなので、曲調自体は、決してやさしい雰囲気ではありません。
しかし、歌詞の端々や、ヒロトの歌い方から、どこか「やさしさ」を感じてしまう曲になっています。
特に、「自分は、はみ出し者である」という自覚がある方ほど、余計に「やさしい」と感じるかもしれません。
色々と歌詞の考察を行ってきましたが、この記事を読んで「そういう見方もあったか」と思った方は、ぜひ、「人にやさしく」を聴き直してみてください。
そうすると、さらにこの曲の素晴らしさがわかるのではないかと思います。