ブルーハーツの「すてごま」の歌詞の考察を行います。
「すてごま」は、1993年にリリースされたアルバム「STICK OUT」に収録されている曲です。
この曲は、1992年に可決された「PKO協力法」に対する違和感を元に作られた曲と言われています。
そのため、この曲の歌詞には「戦争に対する皮肉」が散りばめられています。
そこで今回は、この曲に込められた意味について、詳しく考察していきます。
この曲の作詞・作曲者は甲本ヒロトです。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
何か理由がなければ 正義の味方にゃなれない
最初は、こんな歌詞から始まります。
おろしたての戦車で ブッ飛ばしてみたい
おろしたての戦車で ブッ放してみたい
何か理由がなければ 正義の味方にゃなれない
誰かの敵討ちをして カッコ良くやりたいから
いきなり「戦車」という単語が出てきて、「戦争」のイメージがパッと頭に浮かびます。
戦争というのは、大体、「正義」の名のもとに始められます。
「あの国は悪いことをしている」「自国民を迫害している」などの理由をつけて、「正義」の名のもとに、戦争を仕掛けます。
戦争を始める権力者は、いつも、「正義のためだから、この戦争は正しいのだ」と主張します。
しかし、よくよく見てみると、「本当に正義のためなのか?」と疑問に思ったりします。
そもそも、戦争を起こす国というのは、戦争を起こす前に、相手国に不当な圧力をかけている場合が多いです。
その圧力に対して相手国が反発すると、「あの国は悪いことをしている」と言って、戦争をしかけたりします。
それを考えると、「正義」の名のもとに戦争を仕掛ける国が全面的に正しいことは、ほとんどないように思えます。
この歌詞には、このように「正義」を振りかざして戦争を正当化しようとする権力者に対する皮肉が込められています。
サビの部分①
次に、この曲のサビが来ます。
君 ちょっと行ってくれないか
すてごまになってくれないか
いざこざにまきこまれて
泣いてくれないか
これは、「戦争を仕掛ける権力者の心の中」をうまく表した歌詞です。
戦争を仕掛ける権力者は、前線に向かう兵士に対して、きっと心の中でこう思っているでしょう。
もちろん、権力者は、実際のスピーチでは「すてごま」などという言葉は使いません。
スピーチでは、兵士に対して「正義のために戦ってくれ」と言うでしょう。
しかし、それは建前の言葉です。
戦争を仕掛けて、「自国の兵士が一人も死なない」ということは、まずありません。
必ず犠牲者が出ます。
それは、権力者も十分わかっています。
戦争を仕掛けるということは、その権力者は、「多少のすてごまが出ても仕方ない」と思っているはずです。
そうでなければ、戦争なんか仕掛けません。
そういう意味では、この歌詞は、「権力者の頭の中」を非常にうまく描写していて、冷静に考えるとゾッとします。
そして、「権力者」と「一般の兵士」とのあまりの立場の差に、愕然とします。
片方は、絶対に死なない場所にいるのに、もう片方は、一歩間違えたらすぐ死んでしまうような場所にいるのですから。
「従軍慰安婦」を彷彿とさせる歌詞
次は、こんな歌詞です。
あの娘に俺が何をやったのかなんて
覚えてるはずがないだろう 俺はやってない
何かきっかけさえあれば 次は俺の順番だ
今度こそやってみせる
やってやってやりまくるんだ
この部分は、「従軍慰安婦」をテーマにしたような歌詞となっています。
戦争時に、兵士は、若い女性を「従軍慰安婦」として、無理矢理、性的に奉仕させている場合があります。
戦争が終わっても、「従軍慰安婦」として性的に奉仕させられた女性の体と心には、傷が残ります。
そして、戦後になってから、従軍慰安婦として奉仕させられていた女性たちが、「責任を取ってほしい」と訴える場合があります。
しかし、そうなった時に、「記憶にない」「俺はやってない」などと言い逃れをして、責任を逃れようとする人もいます。
そして、明確な証拠がないことを理由に、十分な補償がなされず、泣き寝入りする女性もいます。
この歌詞からは、そういった「従軍慰安婦」の問題が透けて見えます。
「権力者が兵器を見せびらかす」歌詞
次の歌詞には、戦争に使われる兵器が沢山出てきます。
潜水艦も持ってる 魚雷も積んでる
戦闘機も持ってる 燃料はいつも
満タンにしておいてある
いつでも飛び立てるように
すべてを焼きつくすほどの
爆弾が出番を待ってるぜ
この部分の歌詞は、「権力者が、自国の持っている兵器を見せびらかす」といった感じでしょうか。
戦争を仕掛ける権力者が、「我が国には、凄い兵器が揃っているぞ」と見せびらかしているのでしょう。
サビ②
曲の最後に、また、サビの歌詞が来ます。
君 ちょっと言ってくれないか
すてごまになってくれないか
いざこざにまきこまれて
死んでくれないか
ちなみに、最初のサビでは『泣いてくれないか』と言っていた部分がありますが、最後の部分のサビでは『死んでくれないか』に変わっています。
これは、権力者の本音がさらにリアルに出ていて、冷静に考えると、心の底からゾッとする歌詞です。
まとめ
この曲には、「戦争反対」「平和」といったような、戦争に真っ向から反対するような歌詞は出てきません。
しかし、それでも、しっかりと「反戦」を訴える内容となっています。
歌詞に「皮肉」を散りばめることで、戦争の醜さや、むごさを浮き彫りにしています。
こういった、甲本ヒロトの作詞スキルは、さすがだなと感じます。
2022年の3月現在、ロシアとウクライナとの間で戦争が行われています。
そういう時に、この歌詞を聴くと、よりリアルに心に響きます。
そして、「権力者の恐ろしさ」を見せつけられます。
「正義」の裏に、権力者の高笑いが隠されています。
プーチンも、顔には出しませんが、心の中では、高笑いをしているのかもしれません。
戦争が行われている今だからこそ、改めて聴き直すべき曲だと思います。