ブルーハーツ「リンダリンダ」の歌詞の考察を行います。
「リンダリンダ」は、ブルーハーツの代表曲です。
「ブルーハーツ」というバンド名を聞いた時に、多くの人が真っ先に思い浮かべるのがこの曲です。
オリジナルアルバムでは「THE BLUE HEARTS」に収録されています。
また、多くのベストアルバムにも収録されています。
「リンダリンダ」の歌詞は、基本的にわかりやすい言葉が多く使われています。
ただ、よくよく歌詞を見ると、「これは、何のことを言っているのだろう?」と疑問に思う箇所もあります。
また、そもそも、「タイトルの『リンダリンダ』って、どういう意味なんだ?」という疑問もあります。
そこで今回は、「リンダリンダ」の歌詞について、詳しく考察していきます。
ちなみに、この曲の作詞・作曲は、甲本ヒロトです。
歌詞の全文は、下記のサイトで見られます。
「ドブネズミみたいに美しくなりたい」
この曲は、サビはアッパーな雰囲気ですが、歌い出しは静かな雰囲気から始まります。
そして、冒頭から、多くの人が衝撃を受けた名フレーズが飛び出します。
この冒頭の歌詞にやられてしまったという人も多いでしょう。
ドブネズミみたいに 美しくなりたい
写真には写らない 美しさがあるから
「既存の価値観をひっくり返す」のがパンクだとしたら、この『ドブネズミみたいに 美しくなりたい』という歌詞は、非常にパンクな歌詞でしょう。
世の中のほとんどの人は、「ドブネズミは汚いもの」と思っています。
しかし、ヒロトは、「それは違うよ」と言っています。
そして、「汚くない」どころか、「美しい」と言っています。
これは、なかなか衝撃的な歌詞です。
また、その美しさについて、「写真には写らない美しさがある」と説明しています。
これは、「人を見た目で判断する世の中」に対してNOをつきつける歌詞です。
「見た目が汚くても、心の中はきれいな人だっているんだ」ということをこの歌詞で提示しています。
世の中の多くの人は、みすぼらしい身なりの人を見ると、「心の中も汚いに違いない」という風に判断します。
しかし、心の中は、見た目ではわかりません。
身なりがみすぼらしくても、心の中は純粋できれいな人だって世の中にはいます。
ヒロトは、そのことをよくわかっています。
この歌詞で、ヒロトは、「人の心の中は目に見えないから、見た目で判断するな」というメッセージを伝えています。
ただ、「人を見た目で判断するな」「見た目がみすぼらしい人でも心がきれいな人はいる」といったことをそのまま歌詞にすると、どうも説教くさくなってしまいます。
そうなると、聴くのを敬遠してしまう人も出てきます。
しかし、『ドブネズミみたいに 美しくなりたい 写真には写らない 美しさがあるから』と歌われると、「え、どういうこと!?」と俄然興味が湧いてきたりします。
この歌詞の本質は、「見た目がみすぼらしい人でも心がきれいな人はいる」ということだと思いますが、それを『ドブネズミみたいに 美しくなりたい』と表現するセンスは、唯一無二です。
このあたりに、ヒロトの天性の作詞センスを感じます。
「リンダリンダの意味は?」
冒頭の静かな部分が終わると、一気に盛り上がってサビに突入します。
サビでは『リンダリンダ』という言葉が連呼されます。
これを聴くと、「そもそも、リンダって何だ?」という疑問が湧いてきます。
「リンダ」の意味には、いくつか説があります。
一つ目は、「スペイン語で『かわいい』という意味を表す『Lindo』から取った」という説です。
確かに、「リンダリンダ」は、愛についても歌ってもいるので、あながち間違いではないように思えます。
しかし、ヒロトがスペイン語に精通していたという話も聞かないので、この説はちょっと怪しいと思っています。
二つ目は、英語圏の女性名の「Linda(リンダ)」から取ったという説です。
これも、愛について歌っている歌なので、あながち間違いでもないような気がします。
ただ、急に英語圏の女性名が出てくるというのもよくわからないので、この説も怪しい気がします。
三つ目は、「特に意味はないけれど、語感が良いから採用した」という説です。
自分は、この三つ目の説が有力ではないかと思っています。
確かに、「リンダ」という言葉の語感は良く、つい口ずさみたくなります。
きっとヒロトは、「サビのアッパーな雰囲気にうまく合う言葉はないかな?」と考えて、「『リンダ』という言葉の語感が良いから、採用しよう」といいうことでこの言葉に決めたのだと思います。
そして、実際、ヒロトは、リンダリンダの意味について聞かれた時に、「特に意味はない」と答えています。
この答えについて、「本当の意味を言いたくないから、はぐらかしているんだ」という人もいます。
でも自分としては、ヒロトははぐらかしてこう言っているのではなく、これが本当のことなのではないかと思っています。
「愛の意味」について
さらに、この曲では、こんなことを言っています。
もしも僕が いつか君と 出会い 話し合うなら
そんな時は どうか愛の 意味を知って下さい
ここでは、『いつか君と 出会い 話し合うなら』と歌っています。
ということは、今現在は、まだその相手と巡り会っていないということです。
そういう意味では、これは「未来の恋人に向けたメッセージ」と言えそうです。
そして、未来の恋人に向けて、『愛の意味を知って下さい』と言っています。
この『愛の意味』については、人によって解釈が分かれそうです。
ただ、これまでの歌詞を踏まえると、「その人の外見だけを好きになって『愛だ』と言う人が多いけど、それだけでは愛とは言えないよ。ちゃんと、その人の中身を好きになってから『愛だ』と言おう」ということではないかと思います。
そういうメッセージが、『愛の意味を知って下さい』という言葉の裏に隠されているのではないでしょうか。
「ドブネズミみたいに 誰よりもやさしい」
ここでまた、『ドブネズミ』が歌詞に出てきます。
ドブネズミみたいに 誰よりもやさしい
ドブネズミみたいに 何よりもあたたかく
冒頭の『ドブネズミみたいに 美しくなりたい』という歌詞で度肝を抜かれた人が多いと思いますが、ここでもまた、衝撃的なことを言っています。
ドブネズミというのは、美しいだけでなく、「やさしくて、あたたかい」とも言っているのです。
これがどういうことなのか、少し考えてみます。
自分としては、この「ドブネズミ」というのは、「心が傷ついている人」の例えではないかと思っています。
そう考えると、「ドブネズミがやさしくて、あたたかい」という意味が少しずつわかってきます。
人間、辛い経験が続くと、どうしても心が傷ついたりします。
そういう人は、なかなか気持ちが前向きになれず、見た目に気を遣う余裕もないため、見た目がどうしてもみすぼらしくなりがちです。
そのため、「心が傷ついている人」は、見た目がみすぼらしくなってしまうことも多いです。
しかし、そういう人と実際に話してみると、驚くほどやさしくて、心があたたかい人が結構います。
それは、その人が、人から傷つけられた経験を沢山したからだと思います。
そういう経験を沢山したからこそ、「自分は人を傷つけないようにしよう。人にはやさしくしよう」という意識が強くなったりします。
むしろ、人生、ずっとうまくいっている人よりも、うまくいかなくて傷ついている人の方が、「心からのやさしさ」を持っている人が多い気がします。
そういうことを考えると、『ドブネズミみたいに 誰よりもやさしい ドブネズミみたいに 何よりもあたたかく』という歌詞も、あながち突飛な歌詞とも言えないと思います。
そういう意味では、「突飛なように見えて、実は物事の本質を突いた歌詞」と言えます。
「決して負けない強い力を 僕は一つだけ持つ」
そして、曲の後半には、また「愛」や「恋」といった言葉が歌詞に出てきます。
曲の前半では「愛の意味」についての歌詞が出てきましたが、ここではそれを覆すようなことを言っています。
愛じゃなくても 恋じゃなくても 君を離しはしない
決して負けない強い力を 僕は一つだけ持つ
前半の「愛の意味」という言葉が出てきた時点では、恋人とはまだ出会っていませんでした。
しかし、この後半部分は、恋人と実際に出会った後の歌詞です。
前半では、『愛の意味を知って下さい』と言っていたのに、ここでは『愛じゃなくても 恋じゃなくても 君を離しはしない』と言っています。
この二つを比べて、「矛盾しているじゃないか」と思う人もいるはずです。
確かに矛盾していますが、そう思った人は、よく考えてみて下さい。
前半部分の前は「大好きな人に出会う前の歌詞」で、後半部分は「大好きな人に出会った後の歌詞」です。
人間、大好きな人に出会うと、出会う前と考え方がまるっきり変わってしまうことがよくあります。
この歌詞は、そういったことをうまく表しています。
大好きな人に出会う前は、「ちゃんと愛の意味が分かっている人と付き合いたい」と思ったりします。
しかし、実際に大好きな人に出会うと、「愛の意味とかどうでもいいから、とにかく君と一緒にいたい」という風に考え方が変わったりします。
そういう意味で、「大好きな人」に出会うことは、人を大きく変えてしまうパワーがあります。
前半と後半で矛盾した内容の歌詞を歌っているのは、「大好きな人に出会うと、人は変わるよ」ということを言いたいのだと思います。
そして、この歌詞にでてくる『君』というのは、「大好きな人」という意味だけでなく、「大好きなもの」という意味も含まれていると思います。
この歌詞では、「大好きな人」「大好きなもの」に出会った時、人は生まれ変わって、『決して負けない強い力』を持つことができると言っています。
実際、甲本ヒロトも、中学一年生の時に、「ロックンロール」という大好きなものに出会ってから、生まれ変わっています。
ロックンロールに出会う前までのヒロトは、嫌なことがあると、すぐに落ち込んで、やる気が出なくなってしまったようです。
しかし、ロックンロールに出会ってからは、心の中が、まるっきり変わったようです。
朝、学校に行くのが嫌な時も、家でロックンロールを聴くと、「よし、頑張って学校に行こう」という風に、気持ちを切り替えられるようになったとのことです。
ヒロト自身は、「ロックンロールという大好きなものに出会って、救われた経験」があります。
だからこそ、ヒロトは、この歌詞を通じて「大好きな人やものに出会うと、人は変われるし、大きなパワーが湧いてくる。だから大好きなものを探そう」ということを伝えたいのだと思います。
まとめ
ブルーハーツ「リンダリンダ」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
リンダリンダの歌詞というと、『ドブネズミみたいに 美しくなりたい』があまりにも強烈です。
もちろん、その部分も本当に素晴らしいですが、じっくり歌詞を聴くと、それ以外にも素晴らしい部分が沢山あります。
そして、じっくり歌詞を聴くと、改めて「甲本ヒロトの考え方は本当に深いな」と感心させられます。
ここで書いた歌詞の解釈は、自分の解釈なので、これが正解かどうかはわかりません。
ヒロトの意図とはだいぶずれている可能性もあります。
ただ、ヒロトの意図と少しずれている部分はあっても、本質的な部分の解釈は、それほど外していないのではないかと考えています。
リンダリンダの歌詞は、時代が変わっても、色あせることのない普遍的な強さを持った歌詞だと思います。