今回は、クロマニヨンズ「生きる」の歌詞の考察を行います。
「生きる」は、2018年8月に、シングルとしてリリースされた曲です。
アルバム「レインボーサンダー」に収録されています。
クロマニヨンズの曲の中でもメッセージ性の強い曲なので、クロマニヨンズの曲の中でも人気のある曲だと思います。
今回は、その歌詞に込められた意味を深掘りしていきます。
この曲の、作詞作曲は、甲本ヒロトです。
歌詞の全文は、下のリンクから見ることができます。
「探検好き」のヒロト
曲の冒頭は、こんな歌詞になっています。
黄土色のサファリルック
中南米あたりの探検家
捕虫網と虫眼鏡とカメラ
いかにも典型的な「探検家」の描写です。
いつまでも子供心を忘れない、ヒロトが好きそうな感じですね。
「出会うものすべてを待っていた」(この曲の核心となる歌詞)
その次に、この曲の核心となるようなフレーズが出てきます。
探しものがあるのではなく
出会うものすべてを待っていた
見たいものと
見せたいものばかり
このフレーズを初めて聴いた時、ハッとさせられました。
世の中の多くの人は、「目標」や「なりたい将来像」を決めて、その目標を達成するために日々を過ごしています。
例えば、「今の会社で出世したい」「事業で成功してお金持ちになりたい」などです。
しかし、ヒロトは、この歌詞を書くことで、「そういう生き方って、果たして面白いの?」と疑問を投げかけています。
今の世の中では、「将来の目標を持って、それを達成するために努力すること」は良いこととされています。
それは確かに、良い面もあります。
しかし、「将来のこと」ばかり考えすぎると、「今」がおろそかになってしまうという大きなデメリットがあります。
せっかく今、目の前に楽しいことがあっても、将来のことばかり考えていると、それを見落としてしまうことがあります。
そして、「今楽しいこと」に出会っても、素直に楽しめなくなったりします。
それは、非常にもったいないことだと思います。
ヒロトは、この歌詞で、そういうことを言っているのだと思います。
『探しものがあるのではなく 出会うものすべてを待っていた』というのは、「目標を達成することを重視せずに、その時々の過程を楽しもうよ」ということでしょう。
「将来のために今ある楽しいことを我慢するのではなく、今楽しめることをしっかり楽しもう」というヒロトからのメッセージです。
そもそも、常に将来のことを考えて行動していても、将来うまくいく保証はありません。
「今の楽しみ」を全て我慢して将来に備えても、うまくいかないことはよくあります。
そうなると、「楽しいことに出会ったら、後回しにせず、ちゃんとその時に楽しんでおけばよかった」と激しく後悔することになります。
そうならないためには、今楽しいことを見つけたら、その時にしっかり楽しんでおくことが大切です。
サビの歌詞
そして、サビはこんな歌詞になります。
見えるものだけ それさえあれば
たどり着けない 答えはないぜ
ずっとここには ずっとここには
時間なんか無かった
これは、「過去や未来ばかり見ていないで、今見えることだけに集中しよう」というヒロトからのメッセージです。
そして、「今に集中していたら、自分なりの答えは導き出せる」ということだと思います。
多くの人は、何かを判断するとき、「過去や未来」のことを非常に気にします。
「以前はこうだったから」とか「将来のためにこうしよう」といったことを考えながら、何かを判断します。
それは、ある意味「人間の知恵」でもあります。
しかし、「過去や未来」のことばかり考えていると、「一体、何を基準に判断すればいいのだ」と迷ってしまいがちです。
過去や未来のことばかり考えると、「損得」ばかりで考えるようになります。
しかし、「何が一番自分にとって得か」ということを判断するのは、かなり難しいものです。
「これを選んでおけば得する」というわかりやすい方法は、なかなかありません。
そうなると、「どれが得なのかわからないから、決めきれない」ということになりがちです。
しかし、過去や未来を置いておいて、「今」だけを考えるようにすると、答えを出すのは容易になります。
「今のことだけ考える」というのは、要は、「損得を考えず、自分の気持ちに正直になる」ということですから。
「どれが楽しいか」「どれが面白いか」ということを自分に問いかければ、すぐに答えは出ます。
『見えるものだけ それだけあれば たどり着けない 答えはないぜ』という歌詞は、そういうことを言いたいのだと思います。
また、『時間なんか無かった』というのは、「過去や未来はどうでもよくて、大事なのは今だけだ」ということだと思います。
「今」にだけ集中していれば、過去や未来はないようなものですから、『時間なんか無かった』という言葉を使っているのでしょう。
ヒロトの個人的経験を反映した歌詞
後半には、ヒロトの個人的体験を反映したような歌詞も出てきます。
いつか どこか わからないけど
なにかを好きになるかもしれない
その時まで 空っぽでもいいよ
ヒロト自身は、過去に、「ロックンロールに出会って救われた経験」があります。
インタビューで言っていましたが、ロックンロールに出会うまで、彼は、「何が好きなのかよくわからない少年」だったようです。
これといった好きなものもなく、なんとなく生きている感じだったようです。
しかし、ロックンロールに出会った時、「自分にはこれしかない!」と思ったようです。
ロックンロールに出会うまでは、心の中は空っぽだったのに、ロックンロールに出会ったことで、空っぽの空洞が埋まるような経験をしたそうです。
ちなみに、ヒロトがロックンロールに出会った時のエピソードを詳しく知りたい方は、「ロックンロールが降ってきた日」という本を読んでみて下さい。
そういったことを考えると、この歌詞は、ロックンロールに出会う以前のヒロトのように、「自分が大好きなものがわからない人」に向けて歌っています。
「自分が大好きなことがわからない状態」というのは、不安なものです。
人から「好きなことをしていいよ」と言われたとしても、「自分は、何が好きなんだっけ?」と戸惑ってしまう訳ですから。
しかし、ヒロトは、ロックンロールと出会ってから、空っぽだった心が埋まって、生き生きと過ごせるようになりました。
そういう経験があるからこそ、大好きなことが見つからず心が空っぽになっている人に対して「大好きなものが見つかったら変われるから、今は空っぽでも、心配しなくてもいいよ」と言っているのだと思います。
この歌詞には、「ヒロトなりの優しさ」を感じます。
まとめ
クロマニヨンズ「生きる」の歌詞の考察を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
この曲は、歌詞には『生きる』という言葉は使っていないのに、タイトルで「生きる」という言葉を使っている点も興味深いです。
それを考えると、この歌詞は「ヒロトの生き様」を表した歌詞とも言えます。
この歌詞から判断すると、ヒロトにとって「生きる」とは、「『今ここ』に集中する」ということだと思います。
この曲を聴くと、ヒロトから、「『今ここ』に集中して生きていると、生きている実感を得られて楽しいよ」と言われているような気分になります。
もちろんこの考察は、だいぶ自分の主観が入っています。
もしかすると、ヒロトの意図とは違う解釈をしている可能性もあります。
しかし、甲本ヒロトという人は、ブルーハーツの頃から今まで、ずっと「今の大切さ」を歌ってきています。
それを考えると、自分のこの考察も、あながち間違いではないのかなと思っています。