ある仕事についていて、何かの決定的な違和感を覚えた時に、人は、「この職場を辞めようかな」という思いが頭をかすめます。
その違和感を覚える理由は、人によって様々でしょう。
例えば、「給料が安い」「職場の人間関係が嫌だ」「勤務時間が長すぎる」「仕事がきつくて体がもたない」「仕事内容がつまらない」「経営方針に納得できない」「この仕事を続けてもスキルが上がらない」などです。
また、その理由というのは、一つだけということもありますが、大抵の場合、複数の理由が混じっています。
そういった様々な理由で「この職場にいても意味がない」「この職場にはもういられない」と思った時に、人は「退職しよう」と決意します。
しかし、「辞めよう」と決意しても、現実的には、すぐに辞めることは、なかなかできなかったりします。
仕事を辞める場合は、自分の仕事を誰かに引き継がなくてはなりません。
その、「引継ぎ」に時間がかかり、退職時期が延びてしまうこともあります。
また、人が一人辞めると、一人少ない人数で、会社全体の仕事をまわす必要があります。
そうなると、仕事がうまくまわらなくなる可能性が増えてきます。
すると、経営者や管理職は、「業務がまわらなくなるとまずい」と考え、「新たに人を採用するまで、退職時期を延ばしてくれないか」などと、説得したりします。
そういった説得に応じてしまうと、退職時期を逃し、本心では「辞めたい」と思っているのに、ズルズル仕事を続けてしまうことがあります。
そして、最近の日本には、「ブラック企業」が増えています。
ブラック企業というのは、人件費を必要以上に抑えようとするので、必然的に、一人一人の社員の仕事量も増えます。
そこで、さらに一人辞めるとなると、残った社員の仕事量は、とんでもない量になります。
そのため、辞めると言ってきた社員を「なんとか引き留めよう」と考えます。
そこで、普通に引き留めるくらいなら、問題はないでしょう。
しかし、ブラック企業では、「度を越えた引き留め」がまかり通っています。
そういった引き留めに苦しむ社員が増えています。
退職時に、上司が、辞める社員を必要以上に責める行為は、「ヤメハラ」と言われたりします。これは、パワハラの一種です。
世の中には、「ヤメハラ」をまともに受けて、うつ病になってしまう人もいます。
また、うつ病までいかなくとも、「心の傷」を負ってしまい、別の職場を退職する際も、恐怖心により、なかなか辞められなくなることがあります。
そうなることは、なるべく避けたいところです。
世の中には、運悪く、「なかなか辞めさせてくれない職場」にあたってしまい、「辞められない」と悩んでいる人もいるでしょう。
しかし、事前にしっかりと対策を練っておけば、そういった職場でも、辞めることは可能です。
そこで今回は、そういった方のために、「なかなか辞めさせてくれない職場の辞め方」について、詳しく説明していきます。
法律の規定と、就業規則について
退職をする際に、まずは、軽く「法律」の知識をつけておきましょう。
法律の知識を身に着けておくと、「ヤメハラ」について、対処しやすくなります。
ここでは、「退職に関する民法の規定」について解説します。
また、各会社の「就業規則」と「法律」との関係についても見ていきます。
民法の規定
退職を決意した時は、「退職の希望を伝えてから、最短で、いつまでに辞められるのか」と考えるでしょう。
やはり、「辞めたい」と思った職場に、長くいることは苦痛です。
退職を考えてから、「できるだけ早く辞めたい」という人は多いでしょう。
そこで、まず、「法律ではどうなっているのか」を見ていきます。
今回は、「期間の定めのない雇用契約」の場合について、詳しく見ていきます。
「期間の定めのない雇用契約」について、民法には、このように書かれています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(民法627条1項)
つまり、ここには、「退職するには、退職日の2週間前までに、会社に退職の意思を伝える必要がある」ということが書かれています。
しかし、退職の2週間前までに退職を伝えていなくても、退職できない訳ではありません。
ただ、退職の2週間前までに退職を伝えないと、会社から「損害賠償請求」をされるリスクが出てきます。
誰だって、会社から損害賠償をされたら嫌でしょう。
しかし、民法の規定に従い、退職時に「退職日の2週間前までに退職を伝える」ということを守れば、損害賠償を請求される恐れはありません。
法律上は、「退職日の2週間前までに、退職の意思を伝えれば、退職できる」と覚えておきましょう。
就業規則
会社に入ると、その会社の「就業規則」があると思います。
退職を考えた際には、就業規則の「退職」に関する項目をチェックしてみましょう。
就業規則を読むと、「3ヵ月前までに申し出ること」「1ヵ月前までに申し出ること」など、いつまでに退職を申し出る必要があるのか、記入されています。
その期間を、頭に入れておきましょう。
法律と就業規則、どちらが優先されるのか
法律と就業規則で、「退職を申し出てから、退職するまでの期間」が違うことは、よくあります。
就業規則で「2週間前までに申し出ること」と書かれている会社は、ほとんどないでしょう。
大抵、2週間より長い期間に設定されています。
そうなると、「法律と就業規則、どちらが優先されるのだろう?」と疑問に思うでしょう。
これは、当然ですが「法律」が優先されます。
「法律」というのは、「日本全体で定められているルール」です。
それに対して、「就業規則」というのは、「ある会社だけに定められているルール」です。
そのため、「日本全体で定められているルール」が優先されるのは当然です。
ですから、就業規則で「退職日の1ヵ月前までに、退職を申し出ること」と書かれていても、退職日の2週間前までに退職を申し出ていれば、退職することはできます。
そして、会社は、その場合、あなたに損害賠償を請求することはできません。
ただ、退職を考えた場合、基本的には、就業規則に書かれている期間に従い、上司に退職を申し出るといいでしょう。
その方が、波風が立ちにくくなります。
しかし、様々な理由により、「1日でも早く辞めたい」という強烈な思いがある人もいるでしょう。
そういった場合は、就業規則の期間にこだわらず、退職日の2週間前に退職を申し出て、早めに退職をするようにしましょう。
スムーズに辞めるためにすること
退職の希望を、上司に早めに伝える
法律を見てみると、退職日から2週間前に、退職の意思を伝えればいいことがわかりました。
しかし、スムーズに退職するためには、2週間前ではなく、なるべく早い時期に退職の意思を伝えておいた方がいいと思います。
退職する場合は、後任者に仕事を引き継ぐのに、時間がかかります。
引継ぎの時間的余裕があった方が、円満に退職しやすくなります。
また、会社が求人をかけて、新しい社員の採用が決まるまでには、結構時間を要します。
新しい社員の入社が決まっていた方が、退職時に、責められにくくなります。
そのため、退職を決意したのなら、なるべく早く、上司に退職の意思を伝えておいた方がいいでしょう。
その方が、退職時にもめる確率を減らせます。
ただ、これはあくまで原則で、例外もあります。
ブラック企業の場合、早めに退職を伝えると、その日から退職日までずっと「ヤメハラ」が続く可能性もあります。そうなるとしんどいです。
そういったことが予想される会社の場合には、あえて退職の2週間前に退職の意思を伝えて、パッと辞めるのもありでしょう。
退職を伝えた証拠を残しておく
自分の中で、退職の意思が固まったら、上司に退職の意思を伝えることになります。
この瞬間は、誰でも緊張します。
ブラック企業に勤めているのなら、なおさらでしょう。
退職の意思を伝えても、却下されたり、激しい口調で責めてくる場合もあります。
退職の意思を伝えるという行為は、それだけリスクのあることなのです。
口頭で退職の意思を伝える場合は、後で、「言った」「言わない」でもめることがあります。
その際に、有利な立場に立てるように、何らかの形で「証拠」を残しておきましょう。
万が一、退職でもめて裁判になった場合にも、「証拠」があると、有利になります。
テープレコーダーに会話を録音しておく
退職の意思を上司に伝える時に、テープレコーダーで会話の内容を録音しておくと、有力な証拠になります。
もし可能であれば、会話を、テープレコーダーに録音しておきましょう。
最近では、スマホにテープレコーダーの機能がついています。
会話時に、上司に少し隙があったら、上司の見えないとところでスマホを操作し、会話を録音しましょう。
退職を伝えた時の状況や、会話の内容を、メモに書いておく
ただ、「テープレコーダーに録音する」という行為は、なかなかハードルの高い行為でもあります。
会話の際にスマホをいじっていることがばれると、「何してるんだ!」と激怒するタイプの上司もいます。
また、録音していたことがばれると、それにより、より退職しづらくなることもあります。
そのため、「録音するのが厳しい」という方は、無理に録音する必要はありません。
そのかわり、会話の状況や内容を「メモ」できちんと残しておきましょう。
上司に退職の意思を伝えたら、後で、「上司に退職を伝えた日時」「自分の話した内容」「上司の話した内容」「上司の様子(怒っていた、など)」を、メモに書いてまとめておきましょう。
そのメモが「退職を伝えた証拠」となります。
大抵の上司は、退職の意思を聞いた時、わざわざ、状況や会話の内容をメモしないはずです。
そのため、自分がメモを残しておけば、万が一、裁判になったとしても、こちらが断然有利になります。
退職を伝える書面は、きちんと提出する
退職を伝える際に、口頭で伝えるだけでなく、書面に残しておくことも大事です。
法律を見てみると、退職日の2週間前に、雇用関係について「解約の申入れ」を行えば退職できることになっています。
これは、口頭で伝えても有効で、必ずしも書面である必要はありません。
しかし、口頭で伝えるだけより、書面があった方が、証拠としては強くなります。
退職を伝える書面には「退職願」と「退職届」があります。
職場によっては、「退職時は、口頭で退職を伝えるだけでよい」というところもあります。
ただ、退職時に不利にならないように、「退職願」「退職届」といった書面は、きちんと提出しておきましょう。
「退職願」と、「退職届」を、両方提出する
退職を伝える書面には、「退職願」と「退職届」の2種類があります。
この2つの書面の違いがわかっていない人は多いと思うので、説明します。
「退職願」というのは、あくまで「退職をしたいです」というお願いです。
退職願を上司に提出したとしても、気が変わった場合には、退職を撤回することが可能です。
「退職届」は、「〇月〇日に退職します」といった、はっきりとした意思表示です。
それを提出して、会社が受理した場合には、退職を撤回することはできません。
それを考えると、「退職届」の方が、効力が強いことがわかります。
退職の話を進めている時に「退職願は提出したけど、退職届は提出していない」という人もいるでしょう。
その場合は、しっかりと「退職届」も提出してください。
「退職届」を提出しておいた方が、退職時にもめた際の、確実な証拠になります。
退職が受理されない場合の対処法
ブラック企業の場合、いくら退職を申し出ても、それが一向に受理されない場合があります。
そうなると、「辞めたくても、辞められないのか」と絶望的な気分になります。
しかし、嫌々、ブラック企業に長年勤めていると、体を壊したり、精神を病んでしまったりします。
「体やメンタルの調子がおかしくて、辞めたいのに、退職が受理されない」という場合もあると思います。
そういった時は、退職が受理されていなくても、強硬手段に出て、辞めてしまいましょう。
そんなブラック企業より、自分の体の方が、よっぽど大事ですので、とっとと辞めてしまいましょう。
退職が受理されない時は、退職希望日が来たら、出社しないようにする
退職を申し出ても一向に受理されない場合は、「奥の手」を使いましょう。
上司に「〇月〇日までに辞めたい」と伝え、その日が来たら、もうその会社には、出社しないようにしましょう。
そうすると、上司から、電話がかかってくると思います。
その際は、「〇月〇日に退職すると伝えたので、退職しました。
もう会社には出勤しません」と上司に伝えましょう。
そして、「今回、退職が受理されなかった件について、労働基準監督署にも相談させていただきます」と付け加えるといいでしょう。
自分の会社が「違法なことをやっている」という認識があるのなら、労働基準監督署の名前をだされると、あまり強くは出られなくなるはずです。
その後、会社から電話がかかってきても、無視しましょう。
「奥の手」を実行する場合は、事前に、会社の私物を家に持ち帰っておくことをおすすめします。
「奥の手」を使ってしまったら、もう2度とその会社には入れないので。
あまりに私物を持ち帰ることで怪しまれる場合は、どうしても必要なものだけ家に持ち帰るのも手です。
会社に置いてあるものは、なくしたと思ってあきらめましょう。
「退職願」と「退職届」を、配達記録付きの内容証明郵便で郵送する
その後、会社には、「退職願」と「退職届」を、配達記録付きの内容証明郵便で送りましょう。
それにより、「会社に退職を申し出た」ことの、明確な証拠となります。
「退職願」には、退職を申し出た日付、「退職届」には、退職日を、しっかりと記入しましょう。
労働基準監督署に相談する
「退職届」と「退職願」を会社に送ったら、次は、労働基準監督署に行きましょう。
そして、退職の希望を伝えてもなかなか辞めさせてくれなかった経緯を、労基署の職員に話しましょう。
そうなると、その後、労基署の方から、職場に連絡がいくと思われます。
すると、あなたが辞めた職場の上司は、「まずい」と思うはずです。
そうなれば、職場からあなたにかかってくる電話も、段々なくなるでしょう。
退職時の心構えで重要なこと
退職時というのは、必要以上に責められたりして、心が不安定になりがちです。
そんな時には、以下のような心構えでいくようにしましょう。
必要以上に自分を責めない
「ヤメハラ」でよく見られのが、「辞める職員の良心」が痛むようなことを言ってくるパターンです。
ブラック企業の上司は、辞める職員に対して「仕事を辞めて、途中で投げ出すなんて、無責任だ」「急に辞められると、お客様に迷惑がかかる」「残った社員に仕事を押し付けるのか」などと言ってくることがあります。
これらは全て、「社員としての良心」が痛むような言葉です。
真面目な人ほど、「辞める際、周りに迷惑がかからないように辞めたい」と思います。
しかし、このようなことを言われると、「自分が辞めることで、周りに迷惑がかかる」ということを実感してしまいます。
そうなると、「自分が辞めることで、迷惑がかかり、悪いことをしている」ような気分になります。
すると、良心が痛むので、「周りに迷惑がかかるなら、辞めない方がいいのかも」と思ってしまったりします。
辞めた時に迷惑がかかるのは、「経営者の責任」と考える
しかし、良心が痛み、「辞めない方がいいのかも」と思ってしまった人は、少し冷静になって考えてみましょう。
「自分が辞めた時に迷惑がかかる」というのは、果たして、辞める人の責任なのでしょうか?
辞めた時に迷惑がかかるのは、辞める人の責任ではなく、「経営者の責任」です。
経営者というのは、急に職員が退職した時も想定して、経営を行う義務があります。
ですから、急に誰かが退職したとしても、残った社員で仕事を回せるように人員を配置する義務があります。
誰かが辞めた時、残った職員の仕事量が増えすぎて、仕事がまわらなくなるというのは「そもそも、人員配置が少なすぎる」ということです。
これは、経営者側のミスです。
また、「少ない人数で回せるような、仕事のシステム作りができていない」という場合もあります。
これも、そういうシステムを作れなかった経営者側のミスです。
ですから、そういった経営者側のミスを棚に上げて、上司が辞める人を責めるのは、お門違いです。
あなたの上司は、本来なら、経営者を責めるべきです。
ただ、立場上、そんなことは言えないので、弱い立場である辞める人を責めているのです。
ですから、上司が、良心が痛むようなことを言ってきても、気にしないようにしてください。
「周りに迷惑がかかる」と言われても、「それは、自分の責任じゃなくて、経営者の責任だよ」と思うようにしてください。
「辞めたい」という強い気持ちがあるなら、良心が痛むようなことを言われても、気にせず、「退職する」という意思を貫くようにしましょう。
まとめ
「なかなか辞めさせてくれない職場の辞め方」について説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
仕事というのは、就職するのも大変ですが、辞める時も大変なものです。
場合によっては、辞める時の方が大変かもしれません。
ただ、ここで述べた知識や方法を頭に入れておくと、「ヤメハラ」にも立ち向かっていけて、なんとか辞めることができるのではないでしょうか。
しかし、中には、「本当に悪質な辞めハラをする、ブラック企業」も存在します。
そうなると、自力では、どうしても辞めることが難しい場合もあるでしょう。
ですから、そういった場合は、「退職代行」を使うのも手です。
退職代行を使う場合は、費用が、数万円かかってしまったりします。
しかし、退職でもめて、「ヤメハラ」を受けた場合の精神的なダメージを考えると「数万円払った方が良い」ということもあります。
お金に余裕があって、自力でどうしても辞めるのが難しそうな場合は、退職代行を使うことも考えてみてください。
こちらの記事が、なかなか辞められなくて悩んでいる方の助けに少しでもなれば、幸いです。